だから投資家だけは、ただ本質を見定めるべきなのです。
・・・などと初っぱなからネタに走った雑記ですが、よろしければご笑覧のほどを。(元ネタ:Bloodborne)
今回は、手数料の多寡が本質的な投資商品の質とは関係無いという内容についての雑記です。
<目次>
情報を受け取る際の心構え
今回のネタ元は、以下のYoutube動画です。
私は投資情報をYoutubeからは集めない派なのですが、今回はTwitterで気になる話題があったので簡単に動画の内容(とコメント)を確認してみました。
動画は投資商品の手数料についての内容であり、趣旨としては
「【手数料の高い商品は悪い商品であり、手数料の安い商品こそが良い商品である】と言う単純化された思考は誤りである」
というものです。なお私の意見ですが、この趣旨には概ね賛同します。
案の定というかこの動画のコメントには様々な否定的意見が並びましたが、まず言わなければならないのは次の2点。これらはコンテンツを視聴する際、そして商品を選ぼうとする際に誰もが気を付けるべき内容です。
・Youtube等のコンテンツにおいて、配信者が衆目を集めるため一定レベル過激な発言をするのは自然なこと。
情報の受け取り側が適切に補正すべき内容である。
→誰にも見てもらえないコンテンツに価値はなく、なので衆目を集める行動は当然の行為。
それを否定するのであれば世の中のあらゆる広告を否定することに繋がる。
・あらゆるコンテンツには想定された対象者がある。
例えば投資の初心者でありインデックスやNISAのみで十分という知識の場合、本動画の対象ではない。
→世の中の商品は全て自分に向けて作られたものではなく、中には自分に適さない商品もある。
自分には「選ばない」という自由がある。当事者以外が否定的で攻撃的な発言をするのはただのクレーマー。
やるなら「お気持ち表明」に留めるべき。
自分に合わない商品だってあります(むしろそっちが多い)
先の動画の主は金融の営業マンであり、それを理由にして「高い手数料の商品を売りつけようとするポジショントークだ」とする否定的なコメントがありました。
それは否定しませんが、一方でポジショントークは世の中のどこにでも存在し、「手数料の安い商品こそが良い商品である」というのもポジショントークに他なりません。そもそもポジショントークに善悪はありません。
手数料が相対的に高い商品を「これこれこういう理由があるから高いです」と説明・擁護することと、その商品を売りつけることの間には雲泥の差があります。
前者と後者を一緒くたにして「手数料の高い商品を擁護する=その商品を売りつける気だ」と考えるのは、いささか被害者意識が過ぎるというもの。
自分にとって不利な商品だと思ったら、相手の商売トークを聞かずに黙って立ち去ればいいだけであって、悪し様に言う資格は誰にもありません。
商売トークがしつこかったり某○○ウェイのように違法な勧誘であったり、その商品が明らかに法律に抵触する場合はこの限りではないですが。
手数料と商品の質についての考察
一つ、簡単な考察をしてみます。
「手数料の高い商品は悪い商品であり、手数料の安い商品こそが良い商品である」という考えが正しいと仮定すれば、それは「手数料の多寡で商品の質が決まる」ことと同じ意味です。
しかし実際には手数料の多寡で商品の質を比較できるのは、商品がほぼ同一の性質を持つ場合のみであり、投資商品の幅広さから考えればレアなケースに過ぎません。
レアケースを用いて全体を証明できないのは当然。つまり多くの投資商品において、「手数料の多寡で商品の質が決まる」=「手数料の高い商品は悪い商品であり、手数料の安い商品こそが良い商品である」というのは正しくない、と結論づけられることになります。
逆に言えば、商品がほぼ同一の性質を持つのなら手数料の多寡で質を比較してもOKでしょう。
どこまでを「ほぼ同一の性質」にするかについては議論の余地があるでしょうが、私の考えではVTIとVOOであっても「ほぼ同一とは言えない」です。
従って先の動画は「手数料の多寡で商品の質を比べられるケースと比べられないケースがあり、世の中を見渡せば後者のケースが大部分である」ということを言っているに過ぎず、つまり若干過激な発言があることと普通のポジショントークを含むことを除けば当然のことを言っているに過ぎません。
あまりマネーリテラシーという言葉を濫用したくはありませんが、手数料と商品の質を個別に考えることは、マネーリテラシーの考え方の一つだと思います。
インデックス投資 最大の弱点
動画に対するコメント(特に否定的なもの)には、手数料の安いインデックス投資(*)を念頭においたものが多い印象でした。
*ここで言うインデックス投資は、例えばS&P500や全世界株式などに投資する低コスト投資信託のことです。
インデックス投資は優れた投資法であり、多くの人にとって適した投資商品です。しかしそこに至った経過は重要です。
同じインデックス投資をするにも、様々なトレードを経験してインデックスに行き着いた場合と、最初からインデックス投資だけでやっている場合には大きな違いがあります。
若干過激な表現になってしまいますが、後者のケースは井の中の蛙にならないよう注意した方がいいでしょう。
インデックス投資のみをやっている場合の欠点は一つ。トレード経験値が積めないこと。
トレードはインデックス投資には必要ないと思うかもしれませんが、そんなことはありません。資産構築段階で状況が変わり投資戦略の変更を迫られる可能性もありますし、もし資産構築が完了したとしてもそれで終わりではありません。
インデックス投資は通常、年々一定額を取り崩すことで生活資金を捻出することになるでしょうが、取り崩しステージで大きな下落が発生した場合はどうするかの戦略は必須です。
何も起きなければそれに越したことはありませんが、数十年という期間で何も起きない方にベットするのは分の悪い賭け。つまりインデックス投資をしていても、いつかどこかで裁量トレードを迫られる可能性が高いと思っておいた方がいいわけです。その時にトレード経験値が低いと、終盤戦で大けがをしてしまうことにもなりかねません。
だから全員がトレードすべきとは言いませんが、インデックス以外を含めた様々な商品を比較し、値動きやパフォーマンスを確認して、何よりも「自分が何に投資しているか」中身を理解することは、投資をする万人に必要な勉強だと思います。
長期投資と脆弱性
有名な話ですが、長期投資はリスクを下げません。むしろ上げます。
リスクをリターンの振れ幅とする本来の定義で言えば、長期投資よりも短期的なデイトレードの方がよほどリスクが低いのは当然のこと。
誤解を恐れずに言ってしまえば、長期投資に比べればデイトレードの方がよほど簡単です。
また長期投資を続けていくと、続けた期間に応じてリスクの相対値はどんどん上昇していきますし、積み上がった資産に応じてリスクの絶対値も上昇します。
長期投資を選ぶのはなんの問題もありませんが、その長期投資をどこで止めるか(あるいはソフトランディングするか)という戦略は必須です。
Exit戦略がない無目的な長期投資は、投資家自身の人生という深刻な脆弱性を抱えます。
長期・分散・積立投資が有効な投資である前提は、資産構築活動を当分の間続けることと、積み上がった資産が自分のリスク許容度を超えないこと。
いつかそれを満たさなくなった時のバックアッププランは、常に想定しておくべきことだと思います。
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難病指定「攻略本症候群」
これまでの話を聞いて「じゃあ結局、何が最適なんだよ?」という感想を抱かれる方がいたら、それこそが注意です。
世の中のほとんどのことに最適解はありません。一般論はもちろん、個別ケースを考えてもそうです。
世の中には自分にとっての攻略本があると信じてしまうこと、そしてその錯覚から生じる様々な悪影響のことを私は「攻略本症候群」と呼んでいます。
攻略本症候群からは様々な症状が発生しますが、もっともタチが悪いのは「誰かへの盲信」です。
言うまでもありませんが、「簡単に」「誰でも」「再現性があり」「儲かる手段」というのは、9割は嘘で1割は本物の詐欺です。
そしてその詐欺すら、攻略本症候群に罹患すると「盲信」という症状のために信じ込み、結果として資産や人生に大きな禍根を残すことになりかねません。
またそんな嘘つきor詐欺師ではなく、正しいことを言っている(と思っている)相手であっても盲信することは禁物です。自分の人生の結果は自分にしか引き受けられない以上、他者への仮託は言うまでもなくNGな行為です。
そうならないためにも、攻略本症候群にはご用心を。
最適解とは準備されているものではなく、辛酸を嘗めながら試行錯誤した自分の道筋をあとで振り返った時、そこに見えているものの名前だと思います。
蛇足
以上、手数料と商品の質に関しての雑記でした。
一つ付け加えますと、日本経済浮揚のためにデフレマインドを変えなければと言う傍ら、投資家として手数料のわずかな差を重要視し、ギリギリのコスト競争を良しとするのは何かが歪だと思います。デフレ時代の激安牛丼競争の頃ならいざ知らず、今はそんな時代ではありません。
他者にはデフレマインド脱却を主張、自分は低コスト徹底追求というダブスタは無理筋でしょう。良いと思った物に相応の対価を支払う事は、マネリテ以前に一種の人生リテラシーではないでしょうか。
最後に蛇足とは思いますが、当記事の最後は最初と同じネタでしめさせていただきます。
ゆめゆめ、警句を忘れることなかれ。
我ら情報によって資産を求め、資産を築き、また資産を失う。
知らぬ者も良く知る者も、かねて情報を恐れたまえ。
(元ネタ:Bloodborne)